東九州自動車道 唐原トンネル詳細設計検討業務

遺跡保存のためトンネルの計画唐原トンネル詳細設計検討業務
東九州自動車道は、北九州市小倉JCTで九州縦貫自動車道から分岐し、福岡から大分・宮崎を経て鹿児島に至る全長約436kmの高速自動車道です。

そのうち、本トンネルは福岡県築上郡上毛町に位置し、計画地は史跡唐原山城跡の南端付近の丘陵地を横断していました。

当初、単一断面(4車線)の土工切土で計画されていましたが、調査の結果計画路線上に古代山城跡が発見され、遺跡保存のためトンネルに変更されました。

地形はトンネル設計としては小土被りで(最大18m)、地質は新生代新第三紀の凝灰角礫岩、火山礫凝灰岩の未固結地山から形成され、強度的に見ても決して十分とはいえません。

しかも、トンネル上部に遺跡が存在する状況。トンネル工事による地表面沈下などで遺跡にダメージを与えるわけにはいかないため、本業務最大の課題は地表面沈下の抑制を念頭にした施工法の採用と将来線施工を見据えたトンネル構造の設計でした。

全長243mと高速道路上におけるトンネルとしては比較的短いトンネルでありながらも、双設トンネルとしての検討も考慮しなければならず、やりがいのある業務だったことを覚えています。

過去の経験を生かし、新たな工法への挑戦これまで双設トンネルといえば上下線一体構造の「めがねトンネル」が多く採用されてきました。

この場合、上下線の支保工や覆工がセンターピラー部を共有することから、非常に複雑な挙動を示し先行トンネル側に変状が発生するという構造上の問題点がありました。

上下線施工に伴いセンターピラーには大きい荷重が作用することになり、以前はこの部分をコンクリートで置き換えて上下線一体構造としていましたが、これをなくすことは、その荷重に耐えるだけの地山の強度と幅が必要となります。

そこで近年、補助工法の開発とともに高強度吹付コンクリート・高規格支保工の採用により、これらの問題解決のため上下線が各々単独構造となる超近接トンネルが施工されるようになってきました。

そうした背景などを踏まえ、本トンネルでは、FEM解析を用いて上下線一体構造の「めがねトンネル」と上下線分離構造の「超近接トンネル」について比較解析を行いました。

その結果、先行トンネルの安定・安全性を確保しつつ、遺跡に対する影響や経済性、施工面など有利となる「超近接トンネル拡幅案」を採用したのです。

唐原トンネル詳細設計検討業務

将来線(Ⅱ期線)施工を考慮した覆工構造「超近接トンネル拡幅案」を採用したものの、一筋縄ではいかないのがトンネル工事です。

小土被り・低強度地山における双設トンネルを暫定施工で計画するため、将来線(Ⅱ期線)施工時におけるⅠ期線トンネルの安定・安全性をいかに確保するかが課題でした。

これまでの双設トンネルは大半が完成形で施工されていました。しかし、今回はⅠ期線のみの施工であり、Ⅱ期線施工に伴いⅠ期線トンネルはⅡ期線側に引っ張られて変形し大きな応力を受けることになります。

そこで、その応力に耐えるためにFEM解析を行い将来線トンネルの施工に伴うⅠ期線トンネルの覆工コンクリートに作用する荷重を算定。

さらに、フレーム解析にて支保部材・覆工の構造計算を行い、Ⅰ期線トンネルの覆工補強として一部を増厚するとともに複鉄筋構造とすることでその問題を解決しました。

町道直下部のトンネル施工法起点側の坑口部は、トンネル支持地盤が軟弱なうえに上部を土被り1.6mで町道が横断していました。

そこで小土被りとなる町道に対しては、できるだけ短期間で町道機能を回復する必要があることから、一時通行止めとして坑口より30m間を開削し現場打ちの明り巻構造を構築したのち、土被りが2m程度確保できるように現町道を改良する計画としました。

また、坑口部の地耐力不足対策としては、開削時に攪拌混合処理(現地の土とセメント等を混ぜる)工法を施工して、支持地盤まで改良する計画としました。

メッセージ完成後、仕事で東九州自動車道を利用する機会がありました。

まず気が付いたのはトンネル名が唐原山城トンネルに変わっていたことです。

歴史ある古代山城跡から命名したのでしょう。試行錯誤し設計検討を行った業務でしたが、実際走ってみると、今は暫定車線しか施工されていないため、何の変哲もないトンネルであり、わずか10秒程度で走り抜けてしまいます。

「大変な工事=大規模な工事」というイメージがあるかも知れませんが、実は数秒ほどで走り抜けるわずかな距離のトンネルにもいろいろなストーリーが詰まっています。

地質やその時々の状況に応じて臨機応変さが求められるので、決して楽な仕事ではありませんが、その分やり遂げた時の達成感はとても大きなものです。

私の担当したこの「唐原山城トンネル」も、いつの日か双設トンネルになり注目される日を楽しみにしています。


技術部 今辻


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